その後


 マグル出身の生徒が死んだってことはすぐにホグワーツ中に伝わった。
 もちろん私やリドルの耳にも入ってきた。
 スリザリン寮生たちは生徒の死を面白おかしく推測した。
 女子はリドルの推測を聞きたがったし、男子は私の推測を聞きたがった。
 結局みんな、私たちの意見を聞きたいがために周りに集まっているのだった。
 それが嫌で、私もリドルも用事があると言っては談話室を抜け出して、隠し部屋に入るようになった。
 私たちは、周りにたくさん人がいるのが好きではないから。
 そして、私の心にはもやもやとした気持ちが残っていた。
 罪悪感とでも言うのかしら。
 まったく、私らしくないわ。



 そろそろ夏休みが始まる。
 私たちは、また忌々しいマグルのいる家に戻らなくてはならない。
 生徒たちは、夏休みに帰宅する準備を着々と進めていた。
 荷物をまとめるくらいなら、たった一瞬でできるから、私たちは最後の最後までこの場所にとどまりたかった。
 ホグワーツだって、決して居心地のいい場所じゃない。
 でも、マグルの中にいるよりはずっとましだから……

 「……何やってるの?」

 紅茶を入れて椅子に座ると、目の前にいる青年は熱心に手紙を書いているところだった。

 「夏休みの間中、マグルと過ごすのなんてごめんだからね。校長先生にお手紙を書いているのさ」

 「……夏休みの間中、ホグワーツに残る許可をください、って?」

 「正解」

 「許可してくれるといいわね」

 手紙を書き終えたりドルは、それを丁寧に折りたたんでふくろうに持たせた。
 ふくろうは窓から飛び去って、校長室のほうへと消えた。

 「でも、きっと無理だわ」

 「どうして?」

 「秘密の部屋が開かれた。死者も出ているのよ?そんな危ないところにどうして生徒を残すと?」

 「僕らがあけなければ、あの扉はもう一度開くことはないじゃないか」

 リドルは得意げに言った。
 その綺麗な指が紅茶の入ったカップを握った。

 「…私たちがやったなんて、ばれることはないのよ。外部からの侵入者が秘密の部屋を開いたっていううわさもあるし…」

 私たちは同時にため息をついた。
 こういうことになるなら、生徒を殺すなんてこと、しなければ良かったのかしら。
 やっぱり、普段は感じない罪悪感。





 開け放った窓から、ふくろうが二匹やってきた。
 同じ手紙を持って。










 「行ってよろしい」

 深くため息をついた校長は私たちに部屋に戻るように言った。
 実は私もホグワーツに残ることを申請していたのだけれど、その許可が降りることはなかった。
 もう就寝時間は過ぎているのだけれど、私たちはどうしても眠ることができなかった。
 ダンブルドアの探るような目つきから逃げ出すと、誰もいないことを確認して隠し部屋に入る。
 リドルがため息をついた。

 「やっぱり、犯人が見つからないと駄目らしいね」

 「だからって、自ら名乗り出るなんてするわけないわよね?」

 「当たり前じゃないか」

 リドルは笑んだ。それはぞっとするような笑みだった。
 私は、精神的な疲れから来る眠気と戦いながら、リドルの肩にもたれかかっていた。

 「別に僕らが名乗り出なくてもいいんだよ、

 その顔に浮かんだ残酷な笑みとは似ても似つかない、甘い声で私の名前を呼んだ。
 リドルの冷たい手が私の頬をなぞる。

 「…誰かを犯人に仕立て上げるつもりね?」

 まったくリドルらしい考えだわ。
 くすりと微笑んで、私はリドルの紅い瞳を見つめた。

 「仕立て上げるのにちょうどいい人がいるからね」

 それが誰だかわかったけど、私は何も言わなかった。
 あとはすべてリドルがやってくれるってわかっていたから。

 「……ちょうどいい時間だね。今から地下牢に向かおうか」

 そういってリドルは立ち上がった。
 ごく自然に私の手を引いて。

 夏休み前で夜はまだ肌寒い廊下を、できる限り静かに、でもすばやく私たちは歩いた。
 階段を降りて、地下牢に足を運ぶ。

 「…ルビウス・ハグリッド…を犯人に仕立て上げるつもりなの?」

 「もちろん。彼ほどちょうどいい獲物はいないだろう?図体ばかりでかくて、一週間おきに問題を起こす生徒だからね。彼が間違って秘密の部屋を開けてしまった…そういえばいいんだよ。ちょうどこの地下牢の奥には彼が飼っている生き物がいるしね」

 リドルの笑みは残酷で、でもとても美しかった。
 私はそっとリドルの手を握って、それ以上何も言わなかった。
 なんとなく、吹っ切れた気がしたの。
 私たちが彼女を殺した事だって、これから罪を擦り付ける事だって…
 リドルが闇の帝王になるためには必要なことなのよ。
 そう、必要なことなの。

 そう考えたら、肩の荷が下りた。






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 ぜったいハグリッドって損なやつだと想う。
 それにしても、リドルが黒い。