血筋
「……か」
隠し部屋でお茶をしていると、リドルがつぶやきながら入ってきた。
手にしているのは、ずいぶんと古ぼけた本。
おそらく図書室から見つけてきたのでしょうけれど、それにしてもずいぶんと古い本のようだった。
禁書の棚にでも行ったのかしら……?
「…どうかしたの?」
彼のためにちょっとしたお菓子と紅茶を用意しながらそう聞いた。
リドルは机の上にその本を置くと、ため息をつきながら椅子に腰掛けた。
さっきまで私のひざでくつろいでいた猫たちは、私が立ち上がったのと同時にリドルのひざに移動した。
「…………………」
それは、男性とも女性とも知れない人の名前。
リドルはしきりにその名前をつぶやきながら、古い本の同じページを何度も何度も読み返していた。
「…?」
紅茶を渡しながら聞くと、リドルは顔を上げて私を見た。
「…これ、この部分を読んでみて」
紅茶と引き換えに古い本を受け取った。
その本は焼けてしまっていてずいぶんと黄ばんでいたけれど、インクはしっかりと本に残っていた。
『私が生涯出会った魔法使いの中で、最後まで手放したくなかったものがいる。
出会った時は、ほんの12,3歳の少年で、私の元にいたのはほんの少しの短い期間であった。
だが、私はこの少年ともう二度と会うことがないのを分かっていて、少年を手放したくないと願ったのも事実だった。
少年は、あまりに魔力が強かった。
私がしっかりと育てれば、優秀な魔法使いになったことは間違いないだろう。
その少年がどこから来たのか、誰だったのか…それは、少年が記すなといったので、ここには記さぬ。ホグワーツ創設者のすべてのものが知っていて、私以外のものすべてが忘れている記憶。
名前だけを記すとしよう。
・。
いつの日か、この書物を見つけるのが、そなたであってほしい』
……誰の文章なのかしら。
ずいぶんと昔の人のようね。
本の表紙を見てみる。
でも、誰が書いたのかは記されていなかった。
「……この記述がどうかしたの?」
仕方がないからリドルにたずねてみる。
この記述を読んでも、私にはリドルの考えるように深いことは分からなかったから。
「…最後の部分に……・って書いてあるだろう?」
「ええ」
「おかしいんだ」
「………?」
「の姓はだよね?ちょっと前に魔法使いの旧家について調べていたんだけど、って言う姓を持つ人が出てきたのは、これを書いた人の時代よりもずっとずっと後なんだ」
そうなのかしら。
確かに私の家は……そうね、魔法使いの旧家といわれている割にはそんなに昔ではないわ。
リドルのようにサラザール・スリザリンの頃から血を受け継いでいたわけじゃないのよ。
もっとずっと後。
サラザールたちの時代が去って……それからしばらくしてから家が始まったみたい。
…とはいえ、家の血なんて、既に私にしか残っていないんだから詳しいことは分からないけど。
「…この書物を書いた人は誰なの?」
「サラザール・スリザリンその人さ」
「……それなら、おかしいわね。はサラザールの生きていた時代には存在しなかったわ」
「だろう?だからおかしいんだ。なんて姓は珍しい。人間界にも魔法界でもまったく居ないじゃないか。それが何故、サラザールの記述に現れているんだろう……」
「…私の家系に、なんて名前の人はいないわよ?」
「尚更不思議だね」
私たちはしばらく黙り込んで考えてしまった。
本当におかしいわよね。
の血は、私の一族にしか流れていないの。
私は魔法界にいても人間界にいても同じ姓を名乗る人とは出会ったことないわ。
それが何で、サラザールの時代に出てくるのかしら……
「ねえ……最後のところ気にならない?」
「どこだい?」
「いつの日か、この書物を見つけるのが、そなたであってほしい。って部分。もしも…この…っていう子が、サラザールと同じ時代に生きていたんだとしたら、サラザールほどの魔法使いが、居場所をつかめないはずがないでしょう?徹底して探せば同じ時代に生きているんだから消息がつかめるはず……それを、わざわざいつの日かっていう表現にしてるなんて……」
「確かに……」
なんだか……まったく違う時代の人……未来からやってきた人物に対して、この本を見つけてくれるように頼んだ……って、そんな感じがするわ。
でも、時を越える魔法なんて禁忌。
今はまだ使えない。
研究はされているけれど、もしもその魔法が開発されたとしても、一般の人が使えるような代物じゃないわ。
「…あ」
リドルがつぶやく。
「どうしたの?」
「…この少年は、何らかの形で時を越えた…そう考えられないかい?」
「時を越える魔法は禁忌よ?まだそんな魔法研究途中……」
「ああ、今はね。だけどたぶん……僕らのあとの時代…子孫とか…それくらいになったら可能かもしれないだろう?」
「あいにく…の血は私でおしまいなんだけど?」
リドルが怪訝な顔をして私を見つめる。
「なに?」
「……子孫を残さないつもりでいるの?」
「少なくとも、その辺に居る人たちとは結婚なんかしないつもりよ」
そう……
その辺の人間や魔法使いと結婚して……私が色濃く継いだ星見の力が打ち消されてしまうくらいなら…いっそこのまま消してしまったほうがいいと思っているの。リドルのように私も日記を作って私の記憶を残せばいい……そんな風に思っているの。
「…誰だったらいいんだい?」
「あら、興味あるの?」
「大いにあるね」
「そうね………の星見の力を最大限に生かせる魔力を持った人……かしら。私の力を生半可な人と交えたら、私の力を打ち消されてしまう気がするのよ」
へぇ……と、リドルが目を細めているのが分かる。
不意に、唇を奪われた。
「なっ……」
驚いて抵抗した。
いきなりは卑怯よ。
「……僕は?」
「え?」
「僕の力ではまだには不服……かな?」
リドルの力……
まさか。
リドルの力を受け継いだ子どもができるんだったら……その子を私が育てるんだったら……それはいいかもしれないわ。
でもリドルにはやることがある。
卒業したら世界を見て回るつもりだって…そういっていたもの。
きっと卒業したら私たちは離れてしまうわ。
私は、リドルのやりたいことの妨げにはなりたくないの。
だから、リドルなんか選択肢にも入っていなかった………
「で、どうなの?」
にっこり微笑みながらリドルが聞いてくる。
「……そうね……リドルの力なら全然不服じゃないわ。むしろ大歓迎よ。……でも、リドルにはやりたいことがあるでしょう?私はそれを妨げるような人にはなりたくないもの。リドルなんて考えたこともなかったわ……」
「じゃあ、考えておいてよ」
「……………そうね……」
ねえ、……と、リドルが甘く囁く。
それはくすぐったくて甘くて……なんだか心地よい。
リドルはすぐに私を心地よいところに運んでいく魔法を知っている。
開いていた本を閉じると、リドルの肩に寄りかかる。
考えてみてもいいわね。
星見のこの力を受け継ぐような……そして、私の魔力も思想も……全部受け継ぐような子。
リドルの力なら…相反することはなさそうね。
子どもの名前は、にしよう。
リドルがそうつぶやくのが聞こえた。
私、まだリドルと結婚するなんて言ってないんだけれど。
気が早いわ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
さんとリドルは甘い。