日向ぼっこ


 たまにはいいだろう……?

 彼はそうつぶやいた。
 ホグワーツのほかの生徒の前では、私たちはまったくドライな関係を保ち続けている。
 以前、二人で一緒にいてお互いにいやな目にあったから。
 その理由は単純明快で、私の取り巻きの人たちは…私と一緒にいるリドルが気に食わない。
 逆に、彼の取り巻きたちは…リドルと一緒にいる私が気に食わない。
 二人で一緒にいるとひそひそと悪口を言われることが多くて、疲れてしまうからあまり一緒にはいなかった。
 特に授業なんかでは、隣の席に座るわけにはいかなくて……
 おしゃべりで授業をしっかり聞きもしない生徒たちの隣に座るのは結構辛い。
 私たちは常に、ただの友達である…という関係を保ち続けていたの。

 それが、昨日の夜だったかしら。
 彼が言ったの。
 一日中一緒にいよう……ってね。
 あとでどんなことが待っているか知れないのに、リドルはそんなこと気にしない様子で笑顔で私に言った。
 一瞬戸惑った私も、いいわ、と軽く返事をしてしまったからいけないのかもしれないわ。

 今こうやってここにいることすら、たくさんの生徒に見られているんですもの。



 「…何を気にしてるの?」

 たくさんの人の気配にため息をついていた私に、リドルがそう聞いてきた。
 貴方のせいでこんなに注目されているのに……貴方はきっと全然気にしていないんでしょう。

 「こんなことしてたら、後でどんな目にあうか分からないわよ?」

 中庭の巨大な木の下で私たちはくつろいでいる。
 木にもたれながら本を読む彼に、私はその横でティーカップを取り出してお茶を入れているの。
 天気は良くて、外で日向ぼっこをするにはちょうど良い。
 ただ…それが何故こういう状況で、それもリドルが一緒なのかは疑問が湧くわ。
 つい先日、ホグワーツ特別功労賞なんて面倒なものをもらってしまって、みんなの注目を集めるのに……
 二人で一緒にいたら尚更注目されるに決まってるじゃない。

 「何で急に外でお茶しようなんて言ったの?」

 「…………」

 紅茶の入ったカップを渡すと、リドルは読んでいた本をパタンと閉めて顔を上げた。
 紅い瞳がまっすぐに私を捉える。
 彼は、一口紅茶に口をつけてから、口元を緩めて笑いながら言ったわ。

 「気分だよ」

 って。
 まったく。
 気分でこうやってお茶をしている間はいいわ。
 でもそのあと…どんなことが待ち受けているか知らないわけないのに。

 リドルは優等生。
 リドルは素敵な人。
 みんなの憧れの的。

 だから……こうやって一緒にいる私がこのあとどんな目にあうか…分からないはずもないのにね。
 やすやすと許可してしまった私も私だけれど……

 「そんなに人の目を気にしなくて大丈夫だよ」

 「……リドルは大丈夫かもしれないけれど、私はこの後が怖いわ」

 さらっと言うと、ほんの少し表情を堅くしたリドルの顔が見えた。

 「大丈夫さ」

 でも彼は甘くそういった。

 「君の身に何かある前に僕が手を下すよ」

 「野蛮なことは止めて頂戴ね?この歳になってホグワーツを退学なんてしたくなくてよ?」

 「……仰せのとおりに、様」

 クスクス微笑むとリドルの顔にも自然と笑みが浮かぶ。
 中庭のところどころから感じる視線が驚いていることを悟る。
 きっと声は届いていないわ。
 それでも二人でおどけたように笑ったりしゃべったりしているところを見せちゃって…本当にいいのかしら。
 リドルは相手の反応を楽しんでいるようで、巧みに私と近づこうとする。
 なんだか、相手に見せ付けているみたいだわ。

 「…こういうのだってたまにはいいだろう?」

 リドルはそう聞いてくる。
 飲み終わったカップを私に渡しながら。

 「……貴方はただ、取り巻きたちにこうやって一緒に過ごしているのを見せ付けたいだけでしょう?」

 ふっとリドルは苦笑した。

 「そうだね。には手を出すなってみんなに知らせたいのかもしれないね」

 リドルの笑みに黒いものが見え隠れする。
 リドルの黒い笑みは嫌いじゃない。

 「貴方は相手の反応を見て楽しんでいるだけよ。このあと変な目にあっても知らないわよ?」

 「大丈夫さ。その辺の連中には指一本触れさせないよ。それにね…にも指一本触れさせないから」

 自信たっぷりに言われる。
 そうね。
 リドルだったらやりかねないわ。
 苦笑しながらリドルに密着した。
 リドルはさりげなく私の手を握る。

 「見られてるのに」

 手を離そうとしたけれど、なんだか全部どうでもよくなってきたからそのままにしておく。
 今までその辺で日向ぼっこをしていたとルデがてけてけとやってきた。
 私とリドルのひざにそれぞれ乗って、一度大きなあくびをするとお互い体を寄せ合いながら眠る体制に入る。
 リドルとつながっていないほうの手で、そっとその背中をなでてやる。
 ふかふかしていて温かい。
 心臓の音が伝わってくる。

 「…この猫たち…いつも邪魔するんだから」

 リドルがそんな風に言いながら…でも猫をどかす気はないらしく私の隣でじっとしている。
 まさかこんなに人の目があるところで闇の魔術の話なんて出来ないし、するわけもない。
 でも、こういうのもたまにはいいかなとすこしだけ思った。






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 庭で日向ぼっこしながらお茶をする。