醜い感情 2
最近とまったくといっていいほど会話をしていない。
逆にグリフィンドールの少女、エレティナ・マルクは僕に毎日のように絡んでくる。
優等生を演じている身としては彼女を軽くは扱えないから、仕方なく彼女の笑顔に付き合って作り笑いをしているけれど、なんだか妙に心苦しい。
おまけにこのところは僕を避けているようにすら思える。
一体どうしたんだろう。
魔法薬学の時間だ。
グリフィンドールと合同の授業。
最近避けられているように感じるけれど、僕はに対してわだかまりも何もないしけんかをした覚えもない。
僕が声をかけることを彼女が拒む理由もないだろうと、久しぶりに僕から声をかけてみることにした。
「あ、。隣空いてる……」
「リドル、もしよければ私の隣に座らない?いつも一緒の子が休んでいるから隣が空いているの」
言い終わらないうちに後ろから声がした。
僕が声をかけると驚いた表情で、でもいつもの優しい笑顔を見せてくれたが、その声を聞いたとたんに曇った表情を見せる。
魔法薬学の授業はグリフィンドールと合同。
だからこそ、の隣に座りたかったにもかかわらず、僕が声をかける前にエレティナが僕に声をかけた。
「後ろで貴方のかわいいお嬢さんが笑顔で待ってらしてよ、リドル」
彼女らしくない冷たい声と表情でそう言ったに僕は戸惑いを隠せなかった。
かといって、声をかけてきたエレティナを邪険に扱うこともできず、僕は彼女に返事をするために振り返った。
そのとき、が空いていた自分の隣の席にアンドレーを呼んでいる声を耳にした。
なんだか悲しくなった。
「難しいわね、今日の課題。どうやったら上手に出来るかしら?」
ふふふ、と笑顔を振りまいているのはエレティナだ。
僕の隣に座って収支笑顔だ。
所詮グリフィンドールの少女にもかかわらず、僕に声をかけてくるなんてどうかしてるんじゃないかと思うよ、本当に。
……授業中、ふと考えた。
が僕を避けるようになったのはいつからだろう?って。
そういえば、エレティナがしきりに僕にちょっかいを出してきた頃じゃなかっただろうか。
放課後図書室でエレティナと勉強をしているとアンドレーやらを引き連れてが入ってきた。
彼らは魔法薬学について熱心に論議していたけれど、そのときのの表情は冴えなかった。
本当は気遣って部屋に連れて行きたかったけれど、エレティナがそうさせなかったのは事実だ。
彼女は優しい笑顔を振りまきつつ、僕が何か別のことを考えることを制止しようとする。
「何を考えているの、リドル」
「……どうやったら一番効能のいい薬が出来るか考えていたんだ」
今だってそうだ。
彼女は僕をよく観察している。
彼女は笑顔を振りまいているけれど、それは自然なようで自然ではない。
を意識し、僕がと話そうとするときにかぎってやってきてはその機会を奪っているようにさえ思える。
「そう……あ、ねぇ、ここにこの薬を入れたらどうなるかしら?」
「……」
「……リドル?」
「……」
「リドルってば、ねぇ、聞いてるの?」
「……あ、ああ、ごめん。ちょっと気になることがあってね」
「そんなことどうでもいいじゃない、私の質問に答えて?私、リドルが教えてくれるのが一番好きなの」
柔らかな笑みだ。
気分が悪くなるよ、その笑みを見ていると。
の清楚な笑みとはまったく違う。
僕が求めているのはこんな汚らしい笑顔じゃないのに……求めている笑顔の持ち主は、アンドレーとなにやら親しげに話をしている。
なにやら心の中に言葉では言い表せない感情が浮かぶ。
jealousy とでも言い表すのだろうか。
いや、もっと複雑で理解不能な感情だろう。
確かに僕に彼女を縛る権利はない。
彼女は自由になりたい、自分は自由なんだといつも口にしていた。
僕とともにいるよりもアンドレーとともにいることを選んだのならば、僕にそれをとめる権利はない……のだけれども。
どうやら僕の感情はそれを良しとしないようである。
ふっ、と僕は自分の感情に失笑した。
それと同時に自分の行為のおろかさに気がついた。
「あー、それでは、今日やった薬についてのレポートを来週までに提出するように。授業は終了」
教師の声が響く。
席を立ち寮に戻るために入り口に群がる生徒達の群れ。
僕も立ち上がった。
「……ねえ、リドル。放課後ちょっといいかしら」
「今日もなにか聞きたいことがあるのかい?出来れば明日にしてくれないかな。今日は用事が……」
「……違うの。今日は、とっても大切な話をしたいの。今この場でもいいわ。誰もいなくなったら……少しの時間でいいのよ。そんなに長くはいらないから、ちょっとだけ私の話を聞いて?」
ああ、このグリフィンドールの生徒をどうしてやろうか。
「……なんだか心に穴が開いたみたいだわ、」
の寂しげな声がする。
「貴方達はいつも仲がいいのね。なんだかうらやましいわ」
寝台に横になって猫の体をなでる。
けだるそうに髪をかきあげ、何度もため息をつく。
疲れているのだろう、きっと。
僕と同じように心の中も体も。
「……日常を取り戻すのって大変ね」
彼女はそういってごろんと寝返りをうった。
とたん表情がかたくなりこわばる。
僕はにこりと笑みを見せた。
驚いて寝台から起き上がったは呆れた表情を見せた。
でも、僕の側には寄ってこない。
いや、当たり前だろう。
僕がした行為は知らず知らずの内に彼女を深く傷つけたのだ。
僕のことを警戒するのも無理はない。
「こんな時間に何の用かしら、リドル」
意識して僕のことを呼んでいるのだろう。
彼女の言葉は少しぎこちなくそしていつも以上に冷たい。
「……君にそう呼ばれるととっても不愉快なんだけど」
「あら、栗毛のかわいいお嬢さんに呼ばれたときは満面の笑みで答えていたじゃない?やっぱり私とあの子とでは態度が変わるのね」
の言葉にはとげがある。
そうさせたのは僕の態度だ。
だから彼女の言葉を甘んじて受け止めよう。
でも僕は笑みがとまらなかった。
「ああ、エレティナか。彼女なら金輪際僕に近づくことは無いと思うよ」
つい先ほどの出来事を思い出して僕は声を出して笑った。
は首をかしげて僕を見つめていた。
「それで、話って?」
「……私ね、リドルのこととっても好きなの。リドルは私のことどう思ってるかしら?それが聞きたくて」
「……本当に聞きたいのかい?物好きだね、君も」
「女の子が自分の好きな男の子からどう思われてるか知りたいっていうのは当然の感情よ。ねぇ、リドルも私のこと好きでしょう?」
「僕はね、エレティナ。君みたいに汚らしくて他人のものを盗るような薄汚い奴は大嫌いなんだよ、本当に」
「なっ……ちょっとリドル、世の中にはいっていいことと悪いことがあるのよっ?!」
「いっていいこと悪いことって……君が聞きたいって言ったんだろう?僕は本心を言ったまでさ。声をかけてくるから返事をしていたけれど、あれだけ毎日声をかけられるとこっちも正直迷惑なんだよね。自分の時間もなくなるしね」
「リドルっ!!」
「そうやって本心を表してくれてよかったよ、エレティナ。これで僕も演技をせず君と接しられる。もう一度言うよ。僕は君のように醜くて汚くて自分のことしか考えないような奴は大嫌いなんだよ。これで気が済んだかい?」
「……。僕達もう二週間以上も……いや、下手したら三週間くらい会話をしていないんだ」
「栗毛のお嬢さんと中睦まじく話していたじゃない」
「、君は何か勘違いしているよ。僕がグリフィンドールのあんな汚い雌豚と本気で論議を交わしていたと思うのかい?」
の視線がとまった。
どこを見つめていいのか解らなくて色んなところをひっきりなしに見つめていた視線が、僕とぴたりと合う。
驚いたような困惑気味の彼女の表情に、僕はふっと口元を緩めた。
「……頬、どうしたの、リドル」
ひりひりと痛む僕の頬。
おそらく赤くなっているのであろう。
あまり気にしないよ。
を傷つけてしまった代償にしては軽すぎるくらいの痛みだ。
今まで寝台に座っていたがゆっくり僕のほうに歩み寄ってきた。
何も言わずに僕の右頬に触れる。
「……冷たいね、君の手」
「何があったの?」
「何も。彼女が自分のことをどう思ってるか聞いてきたから、本当のことを言っただけだよ」
じんわりと、の瞳にきらきら輝くものがあふれた。
バカね、と小さく嗚咽を漏らしている。
もう一度口元を緩めて、僕はの腰に手を回した。
「優秀なんだかそうでないのか解らないわ、貴方って人は」
「……そうかな」
「そうよ……」
久しぶりののぬくもりは温かかった。
「でも今回はいいものが見れたかな」
「いいもの?」
「冷静なも、jealousy という感情を持っていたっていう証明になったしね」
「jealousy ……そんな言葉で言い表せるほど単純な感情じゃないわ、ヴォル」
いつもと変わらない tea time
お手製のクッキーを口に運びながら、数週間ぶりの会話に花を咲かせた僕達だった。
ああほんと、もうと離れるのはこりごりだよ。
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完結。
jealousy になっているのでしょうか?
支離滅裂ですが、リクエストありがとうございましたー。