カエル
「うわぁ〜!!先生、匿ってくださーい!!」
どたばたと足音を立てて、北塔の、占い学の研究室に僕らは笑顔で入り込む。
ちょっとした悪戯をしたら、魔法薬学の教師にとっても怒られた。
かっかしてほしくないよね。
ただ、ちょっとだけ、来週の授業に使うって言うカエルに惚れ薬のませてぐでんぐでんにしちゃっただけなんだからさ。
まあ、あのカエルたち、使い物にならなくなっちゃったみたいだけど…
あんなに怒らなくてもいいのになぁ。
とりあえず僕らは一番へまをやらかしそうなピーターと、つかまったら、全部自白しちゃいそうなシリウスをずるずる引っ張りながら、北塔に潜り込んだってわけ。
ジェームズは、北塔なら絶対匿ってくれるから、なんていってたけど。
僕たち、1年前から、北塔進入禁止なんだよね。
授業以外で足を踏み入れたら減点だよ?
そんな風に想いながら、でも面白そうだから、僕はジェームズたちについていくんだ。
ほんと、いい友達を持った。
「…毎回毎回、よく飽きないことね」
「僕ら、悪戯仕掛け人ですからっ!」
「…………そう」
北塔の研究室には、いつものように占い学の先生が居る。
僕ら、毎回悪戯を仕掛けてはここに逃げ込んでるのに、先生は一度も僕らを追い出したことがないんだ。
北塔進入禁止だって、先生が言いつけたわけじゃないみたい。
どうやら、いつも悪戯していた飛行術の教師が、校長に言いつけたみたい。
僕らの悪戯、そんなに度を越してたかなぁ?
「この紅茶、なんだか不思議な香りがする」
「ルフナ、って言うの。ちょっとしたつてでもらったのよ」
「あ、それって先生の恋人?!」
「…………さぁ、どうかしら」
ルフナ、というこの紅茶は、なんだか独特の香りがした。
ミルクティーにして出してくれたんだけど、やっぱり僕の前には大きな砂糖のビンを置いてくれるんだ。
先生ってば気が効くよね。
悪戯をして逃げ込むと、いつも先生は紅茶とお菓子を出してくれる。
大抵は甘いクッキーなんだけど、時々どこか異国のお菓子を出してくれたりもして、お菓子についてはかなり舌が肥えたよ。
なんていったって、先生の作るクッキーは、僕としては甘さ控えめなんだけど、とってもおいしいんだ。
「だって、先生、この前先生が誰かとみっか……ふごっ!」
「?」
「なんでもないですよ、先生。シリウスったら、寝ぼけてるんじゃないかな?変なこと口走っちゃって」
にっこにこ笑顔で、クッキーを頬張りながらシリウスが言おうとしたことを察知した僕とジェームズ。
もちろん覗き見をしていたってことがばれて、お仕置きをくらっちゃうなんてへまはしたくないから、満面の笑みでシリウスの頭に肘打ちを食らわせたよ。
ピーターは、何で僕らがそんなことをしたのかなんて気付いていないみたいだったけどね。
「…あなたがた、午後の授業は?」
「今日は、午前授業でーっす!」
「あら、そうだったかしら」
そんな話をしながらも、先生は紅茶のお替りを丁寧についでくれる。
僕たちはグリフィンドール寮の生徒で、先生はスリザリンの寮監なのに、ひいきをしないってところが、僕たちが気に入ってるところなのかもしれないなぁ。
とんとんっ
「はい?」
「ああ、先生。こちらに悪戯四人組が逃げてきませんでしたか?」
ああ、魔法薬学の教師の声だ。
さっ、と僕らは机の下に隠れる。
もう条件反射になってしまっている。
ここで見つかったら、次にどんなバツを受けるか解らないからね。
最後まで紅茶を飲んでいたピーターを、机の下に無理やり引っ張り込むと、僕らは息を潜める。
「…あら。彼らでしたら今日は見かけてませんわ。それに、北塔には進入禁止のはずですから…」
「ああ、そうでしたね。どうもお騒がせしました」
「お気になさらないでくださいな」
先生はどこまで優雅なんだろう…
ぱたり、と扉が閉じられると、僕らはのそのそと机の下から這い出す。
……って、ピーター!!なにしてるんだいっ!!
机の下から這い出したピーターは何を思ったのか、先生のベッドに、あのときのぐでんぐでんになったカエルを隠したんだよっ?!
こんなことが見つかったら、あの先生だって怒って……
ああ、僕ら逃げ場がなくなっちゃうじゃないか。
「…ピーター・ペディグリュー」
「……っ!!」
「…私のベッドにカエルを仕込むのはこれで何度目ですか?」
「僕、何もしてませんよ?先生」
「…そう。じゃあ、このカエルは?」
むんず、と先生が掴むと、ぐでんぐでんに酔ったカエルがベッドの中から現れる。
ジェームズは、あーあ、というような顔で肩を落とす。
ってことは、ジェームズがピーターにやれって命じたのかい?
ほんと、悪戯仕掛け人だよね、ぼくらって。
「さあ、休憩はこれでおしまい。皆さんご自分の寮にお戻りになりなさいな。今週の占い学の授業では宿題の提出を行いますよ?その準備はしっかり出来ていらすのかしら?」
ぱんぱん、と手をたたいた先生は、僕らを部屋の外に出してしまう。
それから、ざーっと水が流れる音が聞こえて、どうやら、僕らのコップや何かを洗ってくれているみたいだ。
僕は、最後に手にしていたクッキーをかじった。
「あと少しでばれなかったのにな…」
「どーして、ピーターはタイミングが悪いんだろうねぇ」
「ごめん」
「まぁ、次回に期待だな。僕たちのこと、追い出そうとはしなかったみたいだし」
「ねぇ、何でカエルを仕掛けたのさ」
「あのカエル、惚れ薬でぐでんぐでんに酔ってただろう?惚れ薬の作用をあのベッドにしみこませようと思ったんだけど…」
「あんな短時間じゃあ、全然しみこまないって」
「あーあ。また別の作戦考えよーぜ」
「自白剤はまだ出来ないのか?」
「まだまだ。難しくって」
「そっかぁ」
廊下でのその会話を耳にしたが、深くため息をついたのは彼らのあずかり知らぬところであった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
仲が悪いわけじゃないんです。