質問
先日出された占い学の宿題がどうしても解らなくて、私は北塔に足を運ぶことにしたの。
先生なら丁寧に教えてくれるって思ったのね。
それに、北塔にはあの忌々しいジェームズ・ポッターは入って来れないわ。
日長一日私のことを追い掛け回しては訳のわからないことをずーっとしゃべり続けるなんて…
いくら頭が良くてもそんな人嫌よ。
とんとん、と占い学の研究室の扉をノックする。
きぃ、と扉が開いて、いつものとおり綺麗な先生が姿を現す。
「あら」
「先生。どうしてもこの前出された占い学の宿題がよくわからなくて……」
「…そう。中にお入りなさいな。どこがわからないのか、私に説明してくださるかしら?」
「ありがとうございます」
白い肌、長い黒髪。
凛とした態度の中にある神秘的な空気。
私は、先生がとても好き。
先生の占い学はとても面白いし、私にもよくわかるの。
研究室に足を踏み入れながら、私は先生の後姿にうっとりしていた。
だって、先生の黒いドレスはとっても素敵なんですもの。
背の高い先生だからこそ似合うのでしょうけれど、大人の女性って雰囲気がとても好き。
本当に憧れの先生だわ。
「…ええと、貴女は……」
「グリフィンドールのリリーです」
「…貴女、悪戯仕掛け人の方々と同学年だったかしら」
「不本意ながらそうです」
「そう。…それで、どこが分からないのかしら?」
先生はマグカップに紅茶を入れて私の前に差し出してくれた。
綺麗な角砂糖も置いてある。
やっぱり、素敵な人は素敵なのね。
「宿題は…星のささやきを予言という形で伝える、だったわね」
「はい。でも、星のささやきって言うものが聞こえなくて……」
そう。
何度も夜星を見ながら試してみたけれど、星は何も囁いてなんてくれなかったわ。
締め切りは明後日の占い学の授業。
このままささやきが聞こえなかったら宿題の提出が出来ないし、そのことをジェームズたちに知られるなんて真っ平だわ。
だから、こうやって相談しに来たの。
先生はにっこり微笑んでくれた。
「…貴女、確かご両親は…」
「父も母もマグルです」
「そう…だから、少し凝り固まった思想が頭の中にあるのかもしれないわね」
目を閉じて御覧なさい、と軽く笑いながら先生はそういった。
訳がわからなかったけれど、言われるまま目を瞑ってみた。
「貴女は、星は囁かないと思う?」
「…囁くのかもしれないけれど、私には聞こえないわ」
「それは星の囁きに耳を傾けていないからよ。今のままではきっと聞こえないわ……さあ、もう目を開けてよろしいですよ」
恐る恐る目を開けてみる。
部屋の中が星でいっぱいだった。
いつのまにそんな風になったんでしょう。
魔法の力なんてほとんど感じなかったのに……
「星は囁いているの。でも、その声は微々たるもので、私たちの声のように、体についた耳で聞き取れるものではないわ」
先生の透き通った声が響き渡る。
「いい。大切なのは心の耳で聞くこと」
ざわっ、と部屋の空気が変わったのを感じた。
先生のひと言ひと言を部屋の星たちが吸い取っていくように、その言葉に応じて星の光が強くなったり弱くなったりする。
なんだか神秘的な空間に私は座っていたわ。
ああ、なんてすごいんでしょう。
こんな世界に先生と二人っきりなんて……
「何も聞こえないのなら、尋ねて御覧なさいな」
「…尋ねる…?」
「そう。どうして囁いてくれないのですか?と。初めて会った人に簡単に心を許せますか?それと同じことです」
目を瞑って、星の言葉に耳を傾けながら心の中で尋ねてみる…先生はそんなことを言った。
ざわざわと星がざわめいている。
夜空の星を見上げてもそんなこと解らなかったのに、ここなら解る。
すごいわ……
「あ……」
「聞こえたかしら?」
「…なんていってるのか良くわからなかったけれど…」
「いいのよ、最初はそれでも。だんだん聞こえてくるようになるわ」
「…夜の、夜空の星でも大丈夫かしら?」
「もちろん。ここで星たちのざわめきが聞こえているなら、夜の星でもきっと聞こえるはずよ」
だから、心配しなくていいのよ、と先生は笑顔で言ってくれた。
なんだかとても嬉しくなったの。
どうして先生ってこんなに素敵なんだろう。
ばちんっ
突然弾かれた音がした。
いきなり部屋の空気が掻き乱れて、宇宙空間のようだった部屋がいつもの部屋に戻る。
先生がため息をついた。
「…あなたがた、私の部屋に入るときは必ずノックをしてくださいね」
「ごめんなさい、先生。僕たち、とっても急いでいたものだから」
部屋に駆け込んできた少年を見て私は気分が悪くなったわ。
せっかく先生と神秘的な世界にいたって言うのに、いきなりあの悪戯仕掛け人たちがこの場所にやってくるんですもの。
彼らは北塔に入ることを禁止された身のはずなのに。
もう……
「わぁ、リリー。僕がここに来るのを解っていて先に来て待っていてくれたのかい?」
ニコニコ笑顔のジェームズは私のことをなれなれしく名前で呼ぶの。
ああ、私のゆっくりした時間もこれでおしまいかしら。
「…ジェームズ、私はあなたを待ってなんかいませんから。勝手な妄想もいい加減にしてくださる?」
ちゃっかり私の横の椅子に腰掛けたジェームズ。
向かい側にはシリウス・ブラックやリーマス・ルーピン、それにピーター・ペディグリューもいる。
どうしてこう…私ってこの人たちから離れられないのかしら。
離れたいのに、どうしてばったり出くわしてしまうのかしら。
「わぁ、先生。今日はシフォンケーキなの?」
「シフォンケーキって紅茶に良くあうよね」
「…また悪戯をしたのですか?」
「あれは、僕らが悪いんじゃないよね」
「そうそう。この前のクディッチの試合で反則を取らなかった審判が悪いんだよ」
「だから、ちょっとした仕返しを……」
彼らの会話に呆れたの。
でも、先生は彼らを追い出そうとしなかったし、私もなんだか雰囲気に飲まれてその場に居座ることになってしまったわ。
先生の作ったというシフォンケーキは本当に美味しかったし、紅茶もいい香りがしたわ。
いいのかしら。
放課後とはいえ、先生の研究室にこんなに生徒が集まってしまって。
「そう、それでね先生」
「俺たちすごいんですよ?ものすごいことができるようになったんですから」
「三年も苦労して研究したかいがあったよなー」
「ほんとほんと」
…でも、たまにはいいかもしれない。
ここに居ると、悪戯仕掛け人の彼らが本当に無邪気に見えるんですもの。
これは先生の魔法なのかしら……
ゆっくりしたときが流れるこの場所は、すごく素敵な場所ね。
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リリーがに相談。
やっぱり、グリフィンドールの生徒にも慕われる(笑)