ティータイム


 スリザリン寮の生徒には月に一回の楽しみがある。
 それはホグズミードに行くよりも優先させたいほどのものである。
 各言う私も、この楽しい出来事を心待ちにしているものの一人である。

 “それ”は必ず月の終わりの週末に行われる。
 その日は決まってスリザリンの生徒は全員談話室に集まって、そわそわとしている。
 催しが始まるのは午後からだというのに、朝からみんな浮かれ気分に浸っている。
 特に、初めてそれを味わい病み付きになった1年生なんかは、談話室の扉が開かれるのを今か今かと待っているのである。
 正直、この浮かれた風潮には失笑する。
 けれど、私もこの行事は少なからず楽しいと思っているし、ほかのどんな行事よりもすばらしいものだと思う。
 それも、スリザリンの生徒だけが味わえる特権となれば、皆が浮かれるのもわかる。

 きぃ

 扉が静かに開かれた。
 わぁっ、と歓声が上がる。
 私は、呼んでいた本を閉じて、扉のほうを見た。

 部屋中に甘いお菓子と紅茶、それに珈琲のいいにおいが広がっている。
 黒いドレスに身を包んだスリザリン寮の寮監が、生徒が準備した談話室の長机にお菓子と飲み物を準備していく。
 先生は綺麗だ。

 「さあさあ。そんなにあわてなくても全員分ご用意しておりますからね。珈琲と紅茶、どちらがよろしくて?」

 口元を緩め、優しい瞳で私たちを見つめる先生の顔はやっぱり綺麗だ。
 立ち上がった私は、珈琲と先生お手製のお菓子を手にして長机の端に腰掛ける。
 女生徒たちが先生を取り巻くけれど、毎月いろいろな生徒と話をする時間を設けてくれる。
 これが、その一環なのだそうだ。

 「…じゃあ、今日はここにしようかしら。よろしいかしら?」

 「え…あ、もちろん」

 「ありがとう」

 隅に座っていたはずなのに、いつの間にか私の隣に先生が居る。
 驚いて返答がしどろもどろになってしまった。

 「どうぞ召し上がってくださいな」

 「うわー、美味しい」

 「紅茶とよくあうね、このお菓子」

 「先生、来月の予定は?」

 「僕たち、この前すごい発見をしたんですよ、先生」

 いっせいにお菓子を口にし、口を開き始める生徒たち。
 先生はそれに笑顔で対応していく。
 さしてしゃべることもない私は、先生の隣で静かに午後のティータイムを楽しんでいるけれど、それを顔に出すのは難しい。

 「お口にあうかしら?」

 そんな私の態度を察したのだろうか。
 先生が、生徒たちとのおしゃべりの合間を縫って話しかけてくれた。
 それだけで心が舞い上がる気持ちなのだが、そんな感情を表に出して、後で他寮の連中にちょっかいを出されたらかなわない。

 「…はい、とっても」

 「それはよかった。貴方は甘いものがあまり好きそうに見えなかったから、心配したわ」

 くすくすと上品に微笑む。

 「…そんなことありません。先生の作るお菓子は…いつも楽しみにしています」

 「あら。ありがとう」

 占い学の授業を選択しているわけでもない。
 寮監である先生とはほとんど言葉を交わしたこともない。
 それでも、こうやって気にかけてくれるこの先生が、ホグワーツ在籍中にスリザリン寮に所属していた、とは疑い深いものがあった。
 苦い珈琲に砂糖を入れることなく口をつけた。

 「僕、ホグワーツを卒業したくないな」

 「あら、どうして?」

 「だって、先生とのブレイクタイムがなくなってしまうから」

 「そうだよ。こんな楽しい時間が過ごせるなら、僕もずーっとホグワーツにいたい」

 「私も」

 「あらあら皆さんたら…」

 「そうそう、この前ね、先生。占い学を侮辱する生徒が居たんですよ」

 「勿論、他寮の生徒でしたけど、ほんと、むかついたんだ」

 「先生の授業を受けても居ない人に、どうして先生の授業のことがわかるんだろうって思ったんです」

 「先生の授業ってとってもすばらしいんですもの。侮辱するなんて許せないわ」

 「そんなに興奮しないで。だって、あなたたち、そういうことを言われて黙っていたわけじゃないでしょう?」

 「もちろん」

 「それなら、それでいいのよ」

 きわどい会話が耳に入る。
 やはりスリザリンの生徒は私を含めて狡猾である。
 手段を選ばない…けれど、先生はそれを評価している。

 占い学。
 私には未知の領域である。
 占いといえば、未来のことを予測するもので、それが本当になるかどうかはわからない。
 一番不確かな学問である、と私は思っている。
 だから、私の性格にはあわないだろう、と選択をしなかった。

 「セブルスは占い学を選択していなかったっけ」

 「あ、ああ。私は数占いのほうを選択している」

 「そっか。残念だな。一度先生の授業を受けてみると、世界の見方が変わるぜ」

 「……そんなに楽しいものなのか?」

 「んー…僕は、占い学の授業を受けるまでは少し疑っていた部分があった。でも、先生の授業は本当にすばらしい」

 「…そうなのか」

 隣に座っていた生徒に声をかけられた。
 その生徒が満面の笑みで占い学について語ってくれるものだから、占い学について興味を持った。
 …いや。
 占い学そのものというよりも、先生の教える占い学に興味を持ったのだろう。
 今も私の隣でたくさんの生徒に囲まれて笑顔で話をしている先生。
 その先生が教える授業…
 一度、受けてみたいと思った。
 来年は、占い学を選択してみようか。






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 スネイプの視点で。
 さんは生徒に慕われていますね。