夏休みには


 「…初めての教職はどうだったかな?」

 一年間の授業が終了し、生徒がホグワーツから去ったあと、教職員が職員室に集まった。
 これは毎年の行事らしいわ。
 初任教師で、来年からもずっとホグワーツで仕事を続けられることになった私は、やや緊張しながらもその場に出席。

 「一年間、試行錯誤の連続でしたが楽しく授業できました」

 「それはよかった。来年もよろしくたのむよ。……夏休みはどうするつもりかね?」

 夏休み…と聞いて、一瞬私は戸惑った。
 夏休みの予定……
 ついこの間ハロウィーンの後初めての返事がやってきたものだから、夏休みにすることは決まっているの。
 でも、ダンブルドアがそこにいるのにしゃべってもいいものかどうか迷ったわ。

 「あら、先生は夏休みの予定が決まっていらっしゃるのよね」

 こう言うときに勝手に口を挟んでくれたのが、私の次に若い飛行術の教師。
 彼女は、私の部屋に時々やってくる。
 私同様新任教師なんだけれども、私なんかよりもはしゃいでいる騒がしい教師なのよね…

 「おや、そうなのかね?」

 ダンブルドアの眼鏡が光る。

 「…ええ」

 「先生ったら、素敵な恋人からお手紙が来てるんですよ」

 ニコニコと笑顔を振り撒いて言わなくてもいいことをぺちゃくちゃしゃべってくれる教師だわね…
 正直、この方と話をするのは得意ではないわ。
 私は、にぎやかなものを好まないのよね。

 古参の教師には若いわねぇ…とうらやましがられ、男の教師には変な視線を受け…
 それでもその場をやり過ごした私は、とりあえず北塔に戻った。
 明日の朝にでもここを出ようと思っていたのよ。

 でも、神出鬼没の彼はもう私の部屋で待機していた。
 いつもと同じように黒い衣装を身にまとい、フードを深くかぶって顔を覆っていたけれど、紅い瞳を隠すことはできないわね。
 ふふふっ、と微笑むと、彼はばさっとフードを取り去った。
 それから、長いローブを引きずりながら私に近づいてきて抱きしめる。
 久しぶりの彼のぬくもりだった。

 「…元気にしてた?」

 「もちろん」

 「それはよかった。じゃあ行こうか」

 有無を言わさず私の手を引くと、窓から箒に乗って夜の闇を突っ切る。
 夜空を飛びながら、彼はしきりにハロウィーン以降の自分の行動を語りつづける。
 時々相打ちを打ちながら、時折自分の話を話しながら、私たちは新居となる屋敷へ向かって飛びつづける。
 月夜に空を飛ぶ二つの影。
 マグルにも魔法使いたちにも私たちの姿は見えることは無いでしょうけれど、ほんの少しスリリングな体験。












 「…どう?」

 「………なんて言っていいのか……わからないわ」

 彼が降り立った先には、屋敷とは呼べないような大きな建物が建っていた。
 ホグワーツ…とまでは言わないけれど、二人で住むには広すぎる豪邸が目の前に広がっていた。
 外観は星の瞬きを再現したような…闇と調和しつつも耀きを失わない…そんな感じがした。
 全体的にほぼ透明に近いレースに包まれていて、それがマグルやその辺の魔法使いからこの豪華な屋敷を隠す役割をしていた。

 「外だけで驚かれても困るんだよね」

 「…?」

 「中へどうぞ、僕のお姫様」
 「………あなたは…ぜんぜん変わってないわね」

 くすくす微笑みながら、彼に手を引かれるままに屋敷の中に足を踏み入れる。

 「…すごいわ…」

 部屋の数の多さに驚いたの。扉を開けた瞬間に目の前に広がったのは…螺旋階段。
 長い螺旋階段の先にはいろんな部屋へ続くであろう扉がずらーっと並んでいた。
 一階には綺麗なキッチンとリビングがあって、そこの雰囲気は……なぜかあの隠し部屋によく似ていたの。
 私は何も言えなくて…ただじっと中を見ていた。

 「…こっちはどう?きっと気に入るよ」

 奥の部屋の扉を開けた。
 中に広がったのは今日の星空そのままが映し出された部屋だった。
 …そう、ホグワーツの大広間の天井のように。

 「すごすぎるわ…」

 「君のため…さ。あんなホグワーツなんかに一年もいたら気分がめいることこの上ないだろう?この先いつまであそこに居るのか僕にはわからないけれど、君がくつろげる空間を作り出したかったんだ」

 「…ヴォル…あなたって…すばらしいわ」

 「惚れ直した?」

 「ええ」

 「…食事にしないかい?今朝から何も食べてないんだ」

 「何か作るわ」

 彼の脱いだローブを、真新しいスタンドにかけると、リビングにつながったキッチンに入っていく。
 人が入ることがもったいないくらい場所だったわ。

 「やっぱり、ホグワーツでは遮断されていたことが、たくさん見つかったよ」

 「世界にはいろいろな魔法使いが居るからかしら」

 「…世界の闇の魔術を研究する魔法使いの中では僕はまだ新参者さ。でも、今年一年で顔を広めてきたからね。近いうちに僕らの夢は叶うよ」

 そんな会話をしながら、初めて同じ場所で一日を過ごした。
 邪魔する人なんて誰も居ない。
 聞こえるのは…そうね。
 とルデの甘ったるい鳴き声くらいかしら。
 彼らも、ヴォルが用意したふかふかのソファにご満悦のようだった。

 なにはともあれ、私たちは久しぶりの甘い夜を過ごした。






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 甘いね。一年に一回だから許してあげて(笑)